東北大学大学院医学系研究科 感染病態学分野
東北大学大学院医学系研究科 総合感染症学分野
東北大学病院 総合感染症科/感染管理室

研究内容Research

感染病態学分野の研究

1.薬剤耐性菌に対する新規抗菌ペプチドの開発

薬剤耐性菌や非結核性抗酸菌などによる難治性感染症の治療開発は、非常に重要である。東北大学や海外研究施設と協力し、既存のカチオン性抗菌ペプチドに修飾因子を付加することで生体安定性、抗菌活性向上を目指した新規AMPsの開発を行っている。また、In vitroおよびIn vivoでの抗菌活性評価に加え、東邦大学と共同で生体内PK/PDを模したinfection follow fiber systemなどを用いた評価系の確立も行っている。

2.細胞外小胞に着目した感染病態の理解と新規重症度評価の開発

細胞外小胞(exosomesやmicroparticles)は様々な細胞から分泌される脂質二重膜を持つ微粒子であり、癌領域において、体液診断や治療に応用にされつつある。ウイルスや細菌感染時に、IL-1 like cytokine family memberが感染細胞より細胞外小胞に包埋され分泌され、感染病態に影響を及ぼしていることを見出した。そこで、細胞外小胞を用いた感染病態の理解を深めるともに、in vitroでの新規重症度評価の開発を行っている。

3.マクロファージ・単球制御を目指した重症感染病態の理解と治療戦略

COVID-19をはじめ人類は新興・再興呼吸器感染症の脅威に晒されてきた。有効な抗微生物薬やワクチンがない中で、どのように重症感染症病態(敗血症や呼吸窮迫症候群: ARDS)を理解し、どのように治療戦略を組み立てるかを検討している。特に、新規ARDS動物モデルを作成し、免疫細胞(マクロファージや単球)やサイトカイン制御を中心にした治療戦略の検討を行っている。基礎研究で得られた治療法をCOVID-19重症例に対して実施し、臨床研究につなげた実績もある。

4.酸化鉄ナノ粒子を基盤とした新規ワクチン開発

肺炎は死因の上位を占める疾患であり、特に高齢化が問題視される本邦においては対策が急務である。肺炎球菌は、莢膜の抗原性により100種類以上の血清型に分類される。現行の肺炎球菌ワクチンはワクチンに含まれない血清型の菌が増加する「血清型置換」が問題となっており、全ての血清型に対応できる新規ワクチン開発が必要である。また、注射式であるため、血中のIgG抗体は誘導できるが、粘膜IgAの誘導が乏しい。IgA抗体は重症化だけでなく、感染・保菌を予防できる可能性がある。このような背景から、多くの血清型に対し粘膜免疫を誘導する新規ワクチン開発が非常に重要となる。我々は、アジュバントとして酸化鉄ナノ粒子を結合させた肺炎球菌ワクチンを新規に開発し、マウスに経気道投与することで肺内粘膜免疫誘導を認めた。本研究は臨床応用に向けた肺炎球菌感染症の予防を目指した基盤的研究である。本研究は肺炎球菌だけでなく、多様な呼吸器感染症ワクチン開発の基盤となる可能性を有する。

5.クリプトコックス感染における宿主免疫応答の解析

クリプトコックスは厚い莢膜を持った酵母型真菌であり、吸引することで肺へと感染する。病原性は本来弱く、健常者では不顕性感染に終わることが多い一方、エイズ患者などでは、しばしば中枢神経系に血行性に播種を起こし、重篤な脳炎・髄膜炎を引き起こす。この菌の排除には1型ヘルパーT細胞が重要と考えられており、どのようにしてこの免疫応答が誘導されるのかなど解析を行っている。
また、近年、クリプトコックスは結核菌と同様に不顕性感染後に潜在性感染し、免疫の破綻に伴って内因性再燃する可能性が報告されており、メモリーT細胞が菌の再活性化の抑制に重要であると考えられている。我々はクリプトコックス特異的なT細胞受容体を高発現したトランスジェニックマウスを世界に先駆けて作成し、このマウスを用いた潜在性感染マウスモデルの作成に成功し、メモリーT細胞の解析を進めている。